【インタビューKnow-Howコラム】優れたインタビュー記事は、本音と建前の中間点に位置する。
弊社代表・伊藤が、すぐれたインタビュー記事について考察しています。
優れたインタビュー記事というのは、本音と建前のちょうど中間点あたりに位置していると思います。公開される前提で制作される記事なので、もちろんすべて本音を書くことはできません。インタビューイーのビジネス上の関係者、同僚やクライアント、あるいは敵対的なライバルだって読むかもしれません。同級生や奥さんなど、プライベート人脈だって目にするかもしれません。あらゆる可能性に目くばせしながら、せっかく心を開いてくださったインタビューイーが、“正直に語ったがために窮地に陥るような文章を絶対に世に出してはならない”のは当然のことながら、とはいえ建前ばかりを並べた無難なインタビュー記事ではつまらない。誰もが知っているエピソードや、どこかで読んだことがあるような借りものの哲学やポリシーがモリモリに盛られたところで、どこか空虚で薄っぺらく、読後に何も残らない記事になってしまいます。
多くの読者がWEB記事を時間つぶしに読み捨てしている時代、そんな借りてきた言葉や綺麗事はすぐに見抜かれ、“浅い発言”と映ってしまいます。そんなペラペラなエピソードしか語れないような経営者は軽視され、その経営者自身はおろか、会社自体、大きなイメージダウンに繋がってしまう可能性だってあります。浅はかなインタビューを元にした記事によって、インタビューイーの人格自体が否定されることもありえます。なので、公開できる範囲の境界線ギリギリを攻めるのがベターで、要するに限りなく本音に近い建前こそが読者に刺さり、インタビューイーの人格を限りなく正確に表現しうるのだと考えています。
どうすれば本音と建前のちょうど中間点あたりに位置するようなインタビュー記事を制作できるのか。まずは当然のことながら、インタビューの場において、とにかく本音を語ってもらうことが重要です。ここで建前を言われたら、限りなく薄っぺらな記事になってしまいます。事前に台本が用意された舞台稽古みたいなインタビューなんてすべて建前だらけで、発言者の人間性が全く見えません。台本の焼き直しみたいな記事なんて書きたくないし、読者だって読みたくはないでしょう。だからインタビューの際に僕はいつも用意されたシナリオを崩しにかかるところからはじめます。
もちろん崩しすぎたら進行がグダグダになるので、その場で新しい筋道をつけつつ、相手の反応をみながら聞いていく必要がありますし、そのためには深掘りして、底のほうから現れたエピソードから話をつなぎます。シナリオ(物理的、もしくは頭の中でしゃべることを決めている)を用意している人は往々にして、最初の質問で止めどなく流れるようにしゃべり倒す傾向があります。さらっと話してしまうので、なんとなく聞き流してしまいがちですが、僕は相手が一問目の回答をしゃべりおえて区切りが付いたタイミングで巻き戻し深掘り質問をしています。
そのさらっと話した、一見、スマートな回答の中にもぜったいに引っかかる場所があります。たとえばキャリアストーリーを聞いているときに、どうしてその選択だったのか?という理由をすっとばして話をする人が多いので、一旦ポーズを入れて、「●●を選んだとのことですが、それはどうして?」と聞き返します。そこで詳しい話を聞いたら、「なるほど、そういうお気持ちがあったので●●を選んだ。では、どうして次にこの選択をしたのか?もともとひとつめの選択の理由が●●だったのに、二つ目の選択では、目的自体が変わったように見えますが」的な言及をして、論理をただしながらヒアリングを進めていきます。
とにかく細かく質問をして即答させるのがポイント。回答に詰まったら質問を変えてしまいます。なぜなら僕は、相手が普段、何気なく考えていることを言語化したいのであって、それはたぶん、うまく言語化できなくても即答できるはず。だって普段から考えている、感じていることだから、即答できるでしょって話です。一番いけないのは、考えちゃうような質問を投げかけることです。普段、考えもしないような質問を投げると、人は無理して言葉を紡ぎ出そうとします。そしてどこかで聞いた話や借りてきた言葉を並べがち。例えば、導入事例コンテンツのインタビューで「あなたにとって●●というサービスはどんな存在ですか?」「あなたはこのサービスをどのような方に紹介したいと思いますか?」なんて質問されたら、良いことを言おうとするに決まっています。だって、そんなこと、普段から考えていますか?そのサービスの良さは、日常的なエピソードの中に表現されてしかるべきです。普段考えていないような質問、日常会話で聞かれないような質問は、その方にとってオリジナルではない言葉や気持ちを引き出す可能性があります。そんな予定調和的な記事を用意しても読者にはささりません。
考えてしまうような質問に時間を割くよりも、選択に至るまでにこまやかな心の動きの変化を捉え、リアルなストーリーとして描いた方が共感を呼ぶのではないでしょうか。私たちが提供したいのは、あくまでリアルな心の動きや事実をベースにしたエピソード、ところどころに建前をバランスよく織り交ぜた、限りなく本音に近いストーリーなのです。