【BEST INTERVIEWS】トリップアドバイザー選定による「TOKYO100」の頂点
西麻布の割烹店「伊勢すえよし」が、世界中の訪日外国人観光客からの熱い注目を集めている。田中佑樹さん・麻里さんご夫妻が中心となって切り盛りするこの温もりある空間に詰まった、お二人の“手作り感”あふれるアイデアが、多くの外国人を魅了。トリップアドバイザーで高い評価を獲得し続けている。
西麻布の交差点からほど近い場所に、完全予約制の割烹料理店「伊勢すえよし」がある。わずか11席を用意するこの小さな店に、今、世界各国から訪れる訪日外国人が熱い注目を寄せている。昨年、4月に発表された東京都交通局と世界最大の旅行サイト・トリップアドバイザー選定による「TOKYO100」では、堂々の1位を獲得した。
外国人ゲスト比率が圧倒的に高い理由はもちろん、ご主人の出身地でもある“美味し国”三重の食材をふんだんに使った料理そのものの魅力もさることながら、考え抜かれた様々な“仕掛け”もまた外国人観光客を魅了している。
「調理師専門学校を卒業してから菊乃井にて修行。4年ほど経験を重ねた後、ワーキングホリデー制度を活用してカナダに渡りました。料理でお金を稼ぎながら、1年かけて英語を学びました」というのは、この店のご主人である田中佑樹さん。
東京でお店を開こうと決めたとき、接待に使ってもらう、三重県出身者に使ってもらう、など、いくつかの経営戦略を同時に考えていたという。そのひとつに“インバウンド”というターゲットがあった。
「実は女将である妻も海外生活を送っていた経験がある。ですから“英語を喋ることができる”という強みは活かすべきだろうと考えました。もちろん、それがメインになるかどうかは、その時点では判断はつきませんでしたが、東京で勝負をするにあたっては、“やれることは何でもやってやろう”という気持ちになっていたのは確かです」(ご主人)
オープン前に知人が経営するカフェで、人伝てに集めた外国人の方を対象とした試食会を開催。いかにして懐石料理の魅力を伝えるべきか、シミュレーションとトライアルを繰り返した。
「献立表を英訳するのはもちろんのこと、その裏面に懐石料理に関する蘊蓄を記載しました。私たちが簡単に英訳して、語学堪能な友人にチェックしてもらいながら、手作りで用意。ちゃんと5言語対応になっていますよ」(ご主人)
さらに、ご主人が三重県の生産者の元の訪ね、その魅力を伝えるフォトブックを用意。
「私自身、ちゃんと顔が見えて、こだわりを持っている生産者から直接、食材を仕入れたいという思いがあります。それをお客様に、押し付けすぎることなくお伝えするために、ストーリー仕立てのフォトブックというカタチでまとめたものを用意し、お食事の合間に楽しんでいただいています」(ご主人)
実はこのフォトブック、お店のオープン祝いとして、奥様がサプライズで用意したものだという。
「夫と結婚して、そのときはじめて三重県を訪れました。一緒に生産者の方の元を訪問し、記念写真のフリをして(笑)撮りためた写真をまとめて製本したのです。それがだんだんグレードアップして、この今の形になっています」と、女将である田中麻里さんは言う。
常に夫婦でアイデアを出し合い、限られた予算の中で“手作り”のプロモートを重ねていった。料理の世界で生きてきたご主人と、あくまでお客様目線を持ち続ける奥様が議論を重ね、すえよしという店の個性が形成されていったという。
それが功を奏し、外国人のYoutuberがお店を訪問。その魅力が世界中に発信されるやいなや、外国人観光客の予約が一気に増えた。トリップアドバイザーでも評価の高いコメントが集まるようになり、外国人ゲストの比率が高まっていった。
今後は、スタッフの育成にも注力。三重県の生産者を訪れる時間や、母校での講義の時間をつくるなど、幅広い活動を通じて、様々な人を繋いで、食の魅力を伝えていきたいという。もちろん、外国人に対しても特別な思いを持っている。
「自分が海外行った時に感じていたのですが、その国の印象って、たった一人の現地の人間の印象で決まったりすると思うんですよ。うちに来られるお客様は、だいたい2時間ほど滞在されますので、みっちりお話をさせていただくことが多いんですね。やはりそこで、日本の文化や三重県の話、私の生い立ちの話をさせていただき、そして日本の食文化を体現する懐石料理を食べてもらって、“日本ってすごいよね”“日本って素敵だよね”と思ってくれる人が、一人でも多く現れてくれたらいいなとは思います」(ご主人)
伊勢すえよし
http://isesueyoshi.blog.fc2.com/
インタビュアー・伊藤秋廣(エーアイプロダクション)
フォトグラファー・古宮こうき
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