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【連載インタビューコラム】「ミラノサローネ」に見るキッチントレンド

2020年09月11日

日本における唯一無二の『キッチンデザイナー』として活躍中の和田浩一氏が“理想のキッチン”について語る連載企画。今回はキッチンのトレンドについて持論を語ります(2020年4月に取材しました)。

皆さん、こんにちは。毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」の開催延期が先日、発表されました。もちろん、今、世界中に広がりを見せている新型コロナウィルスの感染防止に配慮した措置であることは間違いなく、偶数年である2020年はキッチンがメインになる年で、私も視察に行こうかと思っていただけに残念でなりません。それどころか、私が好きな国のひとつでもあるイタリアが、あのような状態になっていることに心を痛めるばかり。一日も早い収束を祈るばかりです。

さて、今回はキッチンのトレンドについてお話ししましょう。この「ミラノサローネ」では毎回、ファッションにおける「パリコレ」のようにキッチンのトレンドが発信されます。日本のキッチンメーカーもこぞって視察に訪れ、天板の素材、色柄など最新モデルのテイストを自社のラインナップに取り入れようとしますが、どうもキッチンのトレンドの表面的な部分だけを捉えているのか、日本独自のシステムキッチンという規格の中にはめ込むのが難しいのか、非常に残念な形で市場に展開されています。

私も何度か視察に行っているのですが、現地に足を運ぶとキッチンだけでなく展示会場全体、もしくは街中で開催されているインスタレーション、もしくは歩いている人、生活している人をトータルで捉えて、初めてトレンドの背景が理解できる。根本的な部分を理解しないと表現のバリエーションは生まれないし、しかも開発の時間がかかるのか、「ミラノサローネ」のトレンドは、大体2年遅れくらいで日本のキッチン業界に浸透していきます。そこは「パリコレ」からすぐに流行が展開されるファッションとの大きな違いでしょう。

そもそもキッチンは洋服のように毎年、流行を追って買い替えることができません。マンションの内装やインテリアやキッチンのトレンドは、少なくとも10~15年のスパンで考える必要があるため、単純に「今年はこれが来ていますよ」というのはまず無理。とはいえ、世の中の人の見ている方向がそちらになっているし、選択するのはお客様であって私たちデザイナーではないので、トレンドからはずれた提案をしてもそっぽを向かれてしまいます。かといって、「ミラノではこの色柄が流行っています」と、トレンドをそのまま持ってくると、恐らく再来年辺りで飽きられてしまう。

なので長く愛されるキッチンをお客様が選択しやすくする必要があって、私はトレンドに若干は寄せつつ、少し外れたところを目指すか、もしくはがっちりトレンドの中に入り込むけれども、飽きが来ないようなアレンジを加えるような提案をしています。私が個人的に思うのは、施主があれこれ考えすぎるとお互いにがんじがらめになってしまうので、トレンドは意識することなく感じるだけで良くて、素直に自分がやりたいことを言ってくれれば良い。皆さんが「こんな雰囲気が良い」と持ってくる写真は割とトレンドだったりしますから。

 

(豊かな暮らしを創るコミュニティ・ペーパー「ZENCLUB」5月号に掲載)

和田 浩一 /株式会社STUDIO KAZ代表
キッチンデザイナー・インテリアデザイナー
1965年福岡県生まれ。オーダーキッチンのエキスパートとして、空間デザイン、キッチンデザイン、プロダクトデザインやグラフィックデザインなどに携わる。1994年の事務所設立以来800件以上のオーダーキッチンに携わる。
キッチンスペースプランニングコンクールや住まいのインテリアコーディネーションコンテスト、グッドデザイン賞など受賞歴多数。
2014年~キッチンアカデミー主宰。1998年~2012年バンタンデザイン研究所非常勤講師、2002年~2006年工学院大学専門学校非常勤講師、2014年~東京デザインプレックス研究所非常勤講師。
著書に『キッチンをつくる―KITCHENING』(彰国社)、『世界で一番やさしいインテリア』(エクスナレッジ)、
『世界で一番やさしい家具設計』(エクスナレッジ)他。

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