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ビジネスインタビュー&コミュニケーションに関する考察と実践(1-1)

2020年11月14日

年間500人もの心を開いてきたインタビュアー伊藤が、その経験の中で見出してきた、あらゆるビジネスで使える即効性の高いコミュニケーション・テクニックについて、体系的にまとめていきます。

note掲載
https://note.com/aip_ito/n/n7d0d8879bce3

1-1.重要なのは傾聴と理解
「傾聴力」という言葉があります。辞書やビジネス書で「相手の話を注意深く、共感を持って聴くこと」と定義されていますが、近年、ビジネスコミュニケーションの領域においては、ことさら重要視されているような印象があります。特にカウンセリングやコーチング、コンサルティングといった、人に何らかの示唆を与える職種はもちろん、営業職や接客業など、顧客とのリレーションシップが必要とされる職種においても、この「傾聴力」という言葉が、まるで流行語のひとつのように使い倒されています。
 その背景のとして考えられるのが、ニーズの多様化です。一昔前の“こちらの商材やサービスが優れているから買ってください”というプロダクトアウト的な発想では、消費者の心に刺さる商品やサービスを生み出すことはできません。市場のニーズを理解し、それに見合った提案をするマーケットインの発想が必要だといわれるようになり、営業マンの商談スタイルも大きく変わりました。従来のように一方的に商品の魅力を伝えるだけではなく、相手が抱える課題を聞きだして、それを解決していく提案を行う提案型営業が求められるようになりました。そのため、ニーズを引き出す「傾聴力」が重要なのだと、そんな論調で上司が部下に指導をするわけです。商材によって多少の差はありますが、物販、サービス、ソリューション、システムなど分野の区別なく、あらゆる商談は「説明」でなく「傾聴」からスタートするのが、今時のスタンダードな営業スタイルなのかもしれません
 ただし、カタチだけの「傾聴」では逆効果となりがちです。真剣に聞いているように見せかけて、実は右から左に聞き流しているようでは最悪。簡単に相手に見透かされてしまいます。内容も理解していないのに、軽々しく「それ、わかります~」なんて口にしたものなら、逆に「本当か?」と相手をいら立たせてしまう可能性もあります。そこで「傾聴」とセットで求められるのが、「理解力」であることがわかります。まずは傾聴し、瞬時に相手の話からその意図するところや真意を理解する必要があります。そして理解していることを示して会話をつないでいく、すなわち「理解力」は会話を盛り上げるトリガーにもなるのです。

 ビジネス・インタビュアーとして年間500人ほどの、あらゆる立場のビジネスパーソンの話をうかがいわかってきたことのひとつに、「相手の話の聞き方、引き出し方を工夫することによって、会話の質、すなわちコミュニケーションのクオリティが大きく向上する」というセオリーがあります。仕事柄、“人がどんな時に心を開いて話してくれるのか研究を続けてきた”というと大げさになりますが、常に作戦を考えてきました。インタビュー時間として与えられるのは、長くても一時間前後。その限られた時間の中で、どれだけ多くの“良い話”を引き出すことができるのか、私の依頼主である媒体が意図する、その人だけのオリジナルの言葉を引き出せるのか、そのための会話の品質と密度を向上させる必要がありました。
 しかも対象者はインタビュー慣れしている人ばかりとは限りません。はじめて取材を受ける企業人や一般の方々、往々にして口数の少ない研究者や職人などから話を引っ張らなくてはなりません。大人になるとどうしても腹の探り合いのようになり、真意にたどり着くまでに時間がかかってしまいます。ビジネスシーンにおいては、周囲に敵もいますから、うかつに本音を語るリスクがあるのも理解できます。いつも一筋縄ではいかない状況で取材をしてきました。
 そんな経験を重ねるうちにたどり着いたのが、「相手が意図するところを正しく理解して、それを早い段階できちんと示してあげれば、驚くくらいに相手が喜んで話をはじめる」というセオリーです。この“正しく”がミソで、見せかけの傾聴姿勢が相手に見透かされた瞬間に、“こいつ、わかっていないな…”と一気に相手の関心や会話に対する意欲が失われてしまいます。

 ビジネスコミュニケーションの究極の目的は相互理解ですから、相手の話を傾聴して理解を深め、信頼関係を築くことさえできれば、仕事もスムーズに進むといわれています。もっと言えば、世の中のトラブルのほとんどが、コミュニケーション不足による相互不理解から生まれています。そういった意味でも、社内コミュニケーションにおいて、「傾聴」と「理解」の姿勢が求められるのではないでしょうか。職場で抱えるストレスの要因の多くは、この相互不理解によって発生するのではないかと容易く予測されます。そして、リモートコミュニケーションが繰り広げられる電脳空間においては、この「傾聴」と「理解」が、さらに顕著に求められるようになります。なぜなら、特に初対面の相手との間で執り行われる商談やミーティングには時間の限りがあるため、わずかな時間で信頼関係を構築する必要があるからです。
 傾聴力は練習を重ねることで、スキルとして身に着けることができそうなイメージがありますが、理解力のほうが心配です。相当な知識を頭に詰め込まなければ、専門家や未知なる業界人の話が正しく理解できないのではないか、そんな不安を抱く人もいるかもしれません。でも安心してください。後ほど詳しく述べますが、専門的な知識が深くなくても相手の話を理解することはできます。もちろん、ある特定の専門分野について深く知っていることも必要ですが、それは武器の一つに過ぎません。これだけ変化の激しい時代を生き抜くために求められるのは、汎用型の傾聴力です。どんな相手であっても、どんな業界であっても、相手が何を言わんとしているのかを理解しながら話を聞く、そして話ができる人、すなわち“どんな世界でも生き残っていける、汎用型コミュニケーション力を持つ人材”がこれから求められていくのは間違いないでしょう。専門知識も最新技術もすべて人の知性から生産されます。人にしっかりフォーカスし、きちんと言語化をしてもらった概念をキャッチすれば、一見、難しそうに思える話でも必ず理解できるものと考えています。
 傾聴姿勢が身に着くと、副次的メリットが生じます。相手の良き理解者になることで、ものすごく仲良くなれる、信頼できる人脈が増えるということです。ここまで読んでいただいて、もうおわかりかと思いますが、私がこの章で説明を試みようとしている“相手の話を聞く”という行為は、ただ黙って聞く姿勢を指すのではなく、こちらから能動的に働きかけ、相手に話をさせる技術そのものを指します。傾聴して正しく理解して、それを示すことで気持ちよく会話を続けてもらい、相手が勝手にしゃべりだす、そんなスイッチを入れて、そのサイクルを回し続ける装置になりきるための技術について述べていきます