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【連載コラム】26年前に納入したお客様の電話から考察~長く愛されるキッチンの条件

2020年11月21日

日本における唯一無二の『キッチンデザイナー』として活躍中の和田浩一氏が“理想のキッチン”について語る連載企画。今回は長く愛されるキッチンについて持論を語ります。

 皆さま、こんにちは。今回は「長く愛されるキッチン」をテーマに、お客様とのエピソードを交えながらお話をしたいと思っています。昨年の暮れ、古いお客様から電話がありました。私が独立する直前に納入させていただいた前職最後のお客様で、実質私がほぼ一人で担当していたこともあって、いわばSTUDIO KAZの0(ゼロ)作目といえる案件でした。時は1993年12月。もうあれから26年もの月日が経っています。納入してから10年後に一度、輸入品の食洗器が壊れたときにお電話をいたき、Mieleというドイツ製の食洗器をご紹介したことがありましたが、それからまた16年の月日が経っていました。お電話の内容は、やはり食洗器の洗浄能力が落ちたので買い替えようかと思っているというご相談だったのですが、雑談の中で「和田さん、このキッチン、もう26年経つじゃない…」と始まって、“そろそろ替えたいのよね”という話になるかと期待したら、続く言葉は「まったく不満がないのよね」というもの(笑)。当時3歳だった娘さんも30歳くらいになっているし、お電話をいただいた奥様ももう60ちょっと前くらい。劇的にライフステージが変わった期間なのに、今も“まったく不満がない”とおっしゃる。商談にならないでがっかりというより、ものすごくうれしい言葉に感じました。
 理由はいくつかあると思います。まず、お客様は「とにかく細かいところまでわがままを聞いてもらって和田さんがすべて実現してくれた。うるさい客だったでしょ」とおっしゃる。でも、まったくそんなことはなくて、私としてはごく当たり前の要望を受けとめた感覚なのですね。キッチンデザイナーの立場から改めて見直してみると、まず素材が良かったのではないかと思うのです。天板もキャビネットもすべてステンレスなので風化しない。多少、傷はつきますが、それはある意味、家族の歴史が投影されたもので、むしろ愛着が生まれるのではないかと思うのです。そう考えると、最近のキッチン素材は、天板はアクリル樹脂で扉がペットシート、キャビネットはメラミン樹脂なので風化すると本当にみすぼらしくなってしまいます。
 引き出しの造りをあえて大雑把にするのも、実は長く愛されるキッチンづくりに重要なポイントだったりします。最近は、調理器具専用のスペースを設けたり、食器のサイズや種類に合わせた、一見、収納性が良くて整理しやすいものがもてはやされていますが、今、持っている食器や調理器具に合わせて考えると、後々使いづらくなる可能性もあります。同じ鍋をずっと買い続けなくてはならなかったり、ライフステージによって必要な鍋の大きさも変わります。若いうちは大皿でパスタをドーン!だったのが、高齢になってくると小鉢料理が中心になったり(笑)。ある程度、フレキシブルに対応できる、シンプルな造りのほうが良い。それはデザインにも言えることで、シンプルなものほどいつまでも飽きの来ない、愛着が持てるキッチンになります。

和田 浩一 /株式会社STUDIO KAZ代表
キッチンデザイナー・インテリアデザイナー
1965年福岡県生まれ。オーダーキッチンのエキスパートとして、空間デザイン、キッチンデザイン、プロダクトデザインやグラフィックデザインなどに携わる。1994年の事務所設立以来800件以上のオーダーキッチンに携わる。
キッチンスペースプランニングコンクールや住まいのインテリアコーディネーションコンテスト、グッドデザイン賞など受賞歴多数。
2014年~キッチンアカデミー主宰。1998年~2012年バンタンデザイン研究所非常勤講師、2002年~2006年工学院大学専門学校非常勤講師、2014年~東京デザインプレックス研究所非常勤講師。
著書に『キッチンをつくる―KITCHENING』(彰国社)、『世界で一番やさしいインテリア』(エクスナレッジ)、
『世界で一番やさしい家具設計』(エクスナレッジ)他。

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