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【現場直送コラム】優れたインタビューとJazzの共通点

2022年02月4日

2021年度は、450名の方にインタビューさせていただいた超現場主義の私・日本で三本の指に入るプロインタビュアー伊藤秋廣が、コンテンツ制作にかかわる現場経験をコラム化しようというシリーズ。今回は「アドリブ」をテーマにサクッとイカせていただきます。

先日、あるBtoB企業様の導入事例インタビューを終えたとき、その日初めてお会いしたクライアント様にめちゃくちゃ褒められて、こんな質問をいただいたのですね。

「先方への質問はすべて事前に考えてくるのですか?」

いやいや、僕はエスパーじゃないので、どんなに綿密に準備したって、当日、インタビューイーが何をいうかまでは予測できません。質問のほとんどが、その場あわせのアドリブなのでと答えて感心されまして。本当にアドリブなんですよ、まあ、会話と同じです。普通に知人と会話する際に、いちいち事前に質問なんて考えないですよね。政治家さんの答弁のようにシナリオもありませんから、もちろんどういう話の方向に持って行くか、大きな方針はイメージしていきますが、すべて相手が言ったことに合わせて的確な質問をして会話をつないでいく、それが私のインタビューの基本スタイルだったりします。

ここまで読むと、さぞや伊藤はビジネス知識が豊富で話題に事欠かない人間なのだろうと過大評価しがちですが、そんなことはありません。知識量で言ったら、普通よりちょっと上ぐらい? いい歳こいて、知らないことは山ほどあります。それでも十分に、あらゆる業界の、あらゆる立場の方と話をしていける。属性も年齢も違う方と会話ができる。よく雑談力っていいますが、インタビューでは、雑談だけで話つなげることはできません。ちゃんと対話をしながら限られた時間の中で必要な“撮れ高”を確保できなかったら大変なこってす。現場は生ものだし、やり直しが利きません。だから、間髪入れずに的確な質問を投げかけて会話をつなげて、できる限りしゃべってもらう。

これにはコツがあるのです。別にインタビューイーと同じ知識量である必要はありません。僕は相手に話をさせるプロであって、特定の業界に対する知識が深いわけでもなく、むしろ業界特化というより、いろいろな業界の方とお付き合いしないと仕事量が確保できませんから、要するに、汎用型のインタビュー技術をベースに、ちょっとだけ知識をのっけておけばいい。土台さえしっかりしていれば、乗っける知識は本当にちょっとだけでいいのです。

これは果たして、言っていいものかどうか、良い子は僕みたいな悪い大人を真似してはいけないという注釈をつけて説明すると(笑)、あまり大きな声ではいいませんが、僕、ほとんど事前勉強はしないのです。さぼっているわけではないですよ、あえて勉強しないんです(良い子はマネしないでくださいね)。明確な理由はあるのですよ。これもアドリブで会話をつなげるため。相手のことを知りすぎると新鮮味がなくなっちゃうのですよ。事前の準備でインタビューイーに関するネットの記事ばっかり読んでしまうと、“こういう人なんだ”と先入観を持ってしまいますよね。これが一番怖い。

話に新鮮味がなくなると、こっちも反応が悪くなります。「この話はネットで読んだわ…」ってなると、当然、心から面白がって聞けないから、ナイスなリアクションができない。やっぱり「え!!マジっすか? すごい!」っていう反応を、ツクリじゃなく、本心からできたほうがいいじゃないですか。インタビューって対話ですから、自分の反応を生でさらしちゃったほうが良い。そっちのほうが本音を引き出せますからね。目の前の、おじさんインタビュアーがすっごくおもしろがって聞いてくれているから、もっと話しちゃおうって、大概の人がうれしくなって持ち前のサービス精神を発揮してくれるものです。

まあ、何とか新鮮味が感じられないながらも職業としてのインタビューに徹して、淡々と質問するのもプロとして必要な姿勢ですからね。それはそれで、なんとか乗り切るしかないのですが、事前に他の媒体で掲出された記事を読みすぎると、すでにその人のことをわかった気になるので、せっかくのインタビューの場で話しを聞いていても先読みができてしまうというか、その記事の論理やエピソードに引きずられてしまいがちです。要は他の記事と同じ内容になっちゃう。そもそも、専門家の方にお話をうかがうのに、1~2時間の事前勉強で得た中途半端な知識をもってして対等に話そうなんて甘いわけで、そこは違うな、って思うんですよね。

ただし、あまりも無知では困ります。相手と会話ができるくらい、最低限の知識は欲しいですよね。僕は、本人のプロフィールというよりは、その周辺情報を押さえてから取材に向かうことが多いのです。例えば、財界人とか金融機関へ取材に行くときには、僕は正直いって、経済誌の記者並に知識はありませんが、なんとなく今の景況感とか業界事情などモワッとした話は押さえておきます。ビジネスマンがネットのニュースを見るくらいの感覚で、景況感とか株価とか、今、こういう業界は景気悪いですよね、とかそんなレベルでいいので周辺押さえておく。なんとなく世の中の流れは常識レベルで知っている、それで十分じゃないかなって思うんですよ。

どちらかという僕はですね、いつも一般人代表っていうスタンスで話しを聞くようにしているんですよ。業界の中の目線ではなく、外からの目線ですね。一般人代表なんで、一般ピープルの平均的知識、知能レベルや感情で向かう感覚です。だから普段は視聴率の高い番組を見たり、どっち寄りでもない新聞を読んだり、けっして思想的に偏らず、強烈な哲学とかこだわりもなく、けっこうミーハーだったりします。まあ、変に知ったかぶらないようにしますね。だって、相手はその道のプロですよ。そんな方が何十年もかけて学んだことを、私のように何もわかっていない人間が対等に聞こうとするほうがよっぽどおこがましいですよね。

専門誌の取材ではないんでって、商談の時に言うのですよ。「ジャンルは何でもやります」って。ドクターもやります、でも、医療の話を医療従事者に伝えるようなBtoB的な記事は書けません。あくまでBtoCなので、医療の話を一般の方に噛み砕いて伝えることはできますって言います。

一般人的に、聞きたいこと、知りたいことっていう目線があれば質問はできるのですよ。一般人の目線で、わからなければ「それ意味わからないですけど」って聞けばいい。「僕は一般人代表です」って、よく言うんですよ。「勉強不足で大変申し訳ないんですけど」「この年齢で知らないなんて恥ずかしいんですけど」っていうのが常套文句。変なプライドなんてないですから。こっちは正直にしつもんすれば、向こうは専門家だから、ああ、そうだよねって、それで当たり前って思ってくれたります。偉ぶったり、スカしたり、オレ何でも知ってるなんて姿勢はむしろNG。僕らは相手に話しをさせればいい。単に話をさせる装置なんですよ、だから知ったかぶる必要もないし、相手と対等に会話をする必要もありません。

とにかく、事前に対象者の記事を読み過ぎちゃって固定観念を持ったり、相手を“こういうタイプの人間だ”と類型化しすぎちゃうのも絶対にいけない。人は他人とは同じではないから。こういうタイプの人はこうだろうな、こう言うだろうなって、あまりに類型化しすぎちゃうと、想定外の答えかえってくるとアタフタしちゃう。

むしろ必要なのは、一般常識とか業界動向で、社会人として、初対面の人と対談をする感覚でいいと思うんです。対等とは言わないけれど、その人のことを理解しようとするわけだから、言葉の中から理解しようとするわけで、そこで、こっちが下準備するというより、その場で言葉を拾っていく工夫をしたほうが良いという感覚かもしれません。しかも初めて聞くほうが話しも楽しいですからね。僕が楽しんで聞けば、相手だって話すのが楽しくなるはずです。

勉強不足でドキドキ?緊張する?いやいや堂々と勉強不足っていいましょう。相手はその道のプロですから、対等に話をする必要なんて、はなっから無理です。だから下手にでましょう。勉強不足ですみません、教えてくださいと正直いえばいい。肝心なのはそのあと、勉強不足の私に相手はわからせようと教えてくれるから、ちゃんとその場で理解して、わかった、ありがたい、勉強になると素直に面白がって感動すれば良い。インタビュアーに必要なのは、本気で面白がる力です。相手の話の面白ポイントをいち早くつかんで、それを相手に伝えて共有する。これがもっとも重要なポイントです。「今のお話って、これこれこういうことですよね」と、面白がって、愉快がってリアクションしてください。相手はうれしそうに、色々な話をしてくださいますから。

相手の話を即座に理解して、的確な質問をアドリブで投げる。すると、その場でしか生まれないコミュニケーションから、思わぬ本音や「今まで誰にも話したことがない」お宝のような言葉を引き出すことができます。これってジャズセッションと一緒です。そうです、優れたインタビューってジャズの名演に近いのです。

上手にほめるのも重要です。そうすると、相手は非常に楽しい気持ちになって、どんどんおもしろがってもらおう、褒めてもらおうという心理になって、めちゃくちゃ心の内を明かしてくれるようになります。ただし的外れな褒め方は相手を不快にするだけ。それぞれが“当たり前の地図”を持っておいたほうが良いです。それは業界、世の中、そして人間の当たり前、常識、みたいなもの。それを持っていないと、褒めどころやおもしろがりどころがわからなくなり、変なところでリアクションすると「面白いのはそこじゃない→この人はわかってくれない」となって、あっという間に心を閉ざしてしまいます。“当たり前の地図”から類推できる褒めるポイントがわかれば、絶対に楽しいインタビューができます。こっちが楽しければ、相手もたいがい楽しいものです。楽しさは会話を通じて伝播していきますから。

文責:伊藤秋廣(エーアイプロダクション)
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