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A.I.P. journal
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取材前に他のインタビュー記事を読まない理由

2023年11月27日

私が取材前に、他のインタビュー記事を読まない理由について、本音で持論を展開させていただきます。

以前、インタビューを実施するにあたって、“事前準備はあまりしない”みたいな話を書いて、ちょっとかっこつけ過ぎというか、これから“インタビューという仕事をしてみたい”という若者にとってあまり聞かせるべきではない話だったと反省していまして。準備をしないということではなくて、正しくは“その人が登場したインタビュー記事を事前に読まない”という話なんですよ。あちこちにインタビュー記事が出ている方もいるので、そういうのを事前に読むことはあえてしないんですね。

それは忙しいからとか、手を抜いているわけでなく、あえてそうしているのですが、要はそれって僕の視点ではなくて、他の記者のフィルターがかかった記事ではないですか。マスコミやテレビの報道を見てもわかると思いますが、取材を30分くらいしっかりやっても、テレビで取り上げられるのは5分とか3分とか、そんなもんではないですか。これは30分やったものを圧縮しているわけではなく、切り取っているだけですよね。そこを切リ出す基準というのは、基本的には取材した人やディレクターとか、そういう人たちの判断ですよね。記事も基本的には同じ部分があるのではないかと思うわけです。

僕は割と長くインタビューするほうなので、短くても1時間くらい話をききます。1時間取材して文字起こししたら、1万とか2万文字くらいになっちゃうのですよ。ところがコンテンツになると、それが3000文字とか5000文字になる。すべて言葉を置き換えて圧縮したところで、それは表現しきれないものなんです。すると記者の目線が入って、この話はこう表現してここを中心に書こうと考えて、場合によってはうまく丸めて、どっちとも取れるニュアンスの文章になってしまうということが多々あると思います。マスコミの偏重報道と一緒で、編集者とかライターの目線でしかない。そういうものを読んで、僕が先入観みたいなものを持ってしまうのはいけないと思っているのです。

こういうことって実はけっこうあって、芸能人でも嫌な人とか生意気だってイメージがあっても、実際に会ってみると全然そんなことなかったりするんです。それは多分、前にインタビューした人がそういう態度でインタビューしたのか、友好的なインタビューをしてなかったんじゃないかなと思います。だから絶対に、他人の視点とかフィルターがかかった記事に目を通すのは絶対に危険だと思っていて、それだけはやめています。

もうひとつは、あまり下調べの段階で既出記事を読みすぎると、集中力がちょっと薄まる気がするのです。先入観を捨てた方が、ぐっと集中して話を聞けます。何か事前情報が頭に入っていると、話を聞いているうちに“この話知っているな、次はこういうふうに言うんじゃないかな”と考えてしまって、目の前の人の話に集中できなくなってしまう。そうすると何が起こるかというと、話をキャッチするレーダーの解像度のようなものがちょっと低くなるような気がします。できれば、相手が話していることを一言残さず聞いて“これはどういうニュアンスなんだろう、どういう意味なんだろう、どういう意図なんだろう”と、その人の言わんとしていることや思いをしっかり聞き取って、人間性の解像度を上げていかなくてはいけない。逆に前もって情報がありすぎると、それが逆のバイアスになってしまうような感覚があります。

他の人が書いたものは読みませんが、客観的な情報が書いてあるものは読まなくてはいけませんよね。経歴とか会社の事業内容とか、どういう評価を受けているかなどは最低限押さえておくべきです。少なくともその会社や、その人が属している業界、ビジネスモデルは押さえておくべき。そこをある程度押さえておいて、ちゃんと話ができるくらいのレベル、相手の話していることが理解できるレベルに持っていきましょうということですね。相手の言っていることを“なるほど、それはこういうことだな”と理解できるレベルの知識はつけておきましょうという感覚です。だから記事を読んで相手のキャラクターを把握するより、周辺情報を固めておけば、ある程度の話が理解できます。

例えばエンジニアの話を聞くとき、その人がインフラ周りをやっているのか、バックエンドなのかフロントエンドなのかという分類があります。細かいことはわからなくてもいいけれど、インフラをやっている人とアプリケーションをやっている人では仕事の役割が違ってくるし、重視すべき点も違いますから、大まかには理解しておいた方が良い。ビジネスサイドにおいてもそうです。企画をする人もいればセールスをする人もいるなど、それぞれの役割があります。営業ひとつとっても、ゴリゴリ電話をかけてやる営業なのか、インバウンド営業のように問い合わせに対して的確に返すものなのかというのも違いますね。そういうところをしっかり押さえておくと、その業界の中ではセオリーなのかもしれないけど、この会社は特殊なことをやっているのか、それとも業界の中ではスタンダードなのか、そして相手の話や立ち位置を理解できるくらいの準備はしておこうかなという感覚です。

僕のインタビューって、単純にシナリオ通りのQ&Aではなくて会話なんですよ。会話にするということは、相手が言っていることをその場で理解して、その理解に対してどういう質問をするべきかと瞬時に判断して返さなくては成立しません。だから相手の言っていることを理解しないといけないんです。これは完全理解じゃなくても、概略をまず理解するだけでも良いです。私は完全理解できなかったら、その場で聞きますからね、それってこういう意味ですか?って。

僕は聞くことは全く恥ずかしくないですから、「いい年してよくわからないんですけど。どういうことですか?」って確認したりします。さらに、そこをもうちょっと細かく話していただいていいですか?と聞いて、絶対その場で理解するよう努めます。ただあまりにもこちらに理解力がなさすぎると、そこに時間がかかってしまうから、1回質問して回答をもらったら理解できるくらいの基礎知識はつけておきましょうねという感覚ですね。例えば、高度な数学の話はわからなくてもいいから、ある程度数学とはこういう体系があるというところだけはつかんでおくという話です。

私は年間100社くらいの話を10数年も聞き続けているので、当然、理解するための知識とかものさし、質問するための引き出しも相当数もっています。まったく見たことも聞いたこともないような新しい業界となると話は別ですが、今のところそういうのもだんだんなくなってきているので、業界理解という意味では前日に慌てて準備する必要はなくなってきました。

ただ、最新のトピックとか、世の中に新しいサービスが出てきたというのは、けっこうキャッチアップしています。生成AIの話も、世の中で話題になってきたらそのままスルーしないで、ある程度、知己ある人に話を聞いたりとか、どういうものなのかというところを押さえて、それなりに自分の中で把握をして、ある程度のコメントができるくらいの知見をつけておくようにします。

恐るるに足らずだと思いますよ。最新テクノロジーなんて、一番変化が激しいですからね。現段階で全くテクノロジーの基礎知識がない人が、最新のテクノロジーの全容を理解するというのは難しいかもしれないけど、どこかの時点まで戻してあげれば、少しずつ進化しているだけのものだということが見えてきます。AIだって人工知能からの変化ですし、今はIoTと言っていますが、その前は組み込みソフトと言って、掃除機の中に入っているような小さな基盤で制御する「組み込みソフト」がどんどん進化しているだけの話です。その進化や変化を捉えていくということがすごく重要です。

今の最新情報にはついていけない、難しいかもしれないけど、ちょっと昔のことを考えて、“これはもしかしてこれの進化なんじゃないかな”と考えることができれば、ある程度対応ができるんです。インタビューするときに「これって組み込みソフトの進化版みたいな感じですよね?」と聞いてみれば、相手はそうそうって言うかもしれないし、ちょっと違うんだよって教えてくれるかもしれない。そうなると自分も理解ができるし、インタビューをすればするほど自分の中に知見がたまってきて、次の人に質問するときのネタや引き出しが増えていくんです。だから、聞いたことをきちんと知識として体系化しておくということが重要で、次のインタビューの糧になるという話です。

常に自分をバーションアップしているみたいな、なんかすごそうに見えますけど、そうでもないんですよ。ただ、僕はあらゆることに興味があるんですよ。子どものように好奇心がものすごくあるので、なんでも楽しく感じますね。インタビューしていると、新しいことをどんどん聞けるじゃないですか。子どもみたいにものすごくワクワクするんですね。そうすると、何かもっと聞いてみたいなって思うので、インタビューの数を重ねて知見を増やしているって感じですかね。

好奇心という話をしましたが、僕には“好きになる才能”みたいなものがあって、色んなジャンルに興味があるんですよね。例えば、インタビューをするときに、まあ、なかなか普通の人では興味を持ちづらいだろうと思われるネタとかテーマに当たったとしても、僕はその中から絶対に好きになるポイントを見つける自信があるんですよ。この話はここが面白いんだって、興味を持てる部分を引っ張り出して、そこから入っていって話を広げていくと、けっこう面白くなるではないですか。僕だけが見つけることのできた魅力の原石みたいなものをキャッチアップして磨き上げて、誰かに向けて表現するというところに喜びを感じるし、多分、文章の能力とか聞く能力よりも、好きになる才能が一番高いんでしょうね。大概のことが好きになれるし、人のことも、どんな人もっていうとおかしいけど、大概の人を好きになれるし、こっちが好きでいると相手も好いてくれるから、話が非常に楽しく盛り上がったりします。

ここまでお話をすると、伊藤は取材前にあまり準備をしていないという印象を持つかもしれないですが、そんなことはありません。付け刃的な情報収集よりも、ブリーフィングのほうが大事で、それは極力実施させていただきますね。ブリーフィングって何っていうと、例えば明日取材があるとしたら、前日までにお客さんと僕の間で実施するミーティング、打ち合わせのことですね。そんなに長い時間を費やす必要はありません、10分から15分程度ですかね。登場人物の関係性を明らかにしておくと、僕のお客さんっていうのは、そのコンテンツを企画している編集者や、事業会社のマーケティング担当者とか、そういう発注側の人ですね。僕は発注を受けてインタビューをする人で、それに対してインタビューを受ける人がいるわけです。そういう三角関係だとご理解ください。私はそのお客さんとブリーフィングを実施するのですが、ここがけっこう重要で、そのときに今回のインタビューコンテンツは、どういう読者にどのようなメッセージを伝えたいから、この方にフォーカスして、こういうことを喋ってもらいたいと思っています、ということを明確につかむんです。

それはお客さんの側から言ってもらいたい情報ですよね。このコンテンツの企画はこうだから、こういうふうに話を進めて、こういうふうに原稿をまとめてくださいという意向を受け取って、僕としては“そういう方向になるように話を引き出しましょう”となるわけです。これは向こうからの情報提供ですが、それに対して僕として確認したいことはいろいろありまして、それもできる範囲なんですが、相手の年齢とかどのくらい喋る人なのか、どんな感じの人なのかという情報をできるだけインプットします。ここはさっきの先入観にとらわれたくないという話と矛盾しているように思われるかもしれませんが、さっき言ったのは話していることを読まないというだけの話であって、印象や人間性についての情報収集ではないのです。
ここは重要なポイントですが、僕が「さすがプロですね」って言われるのは、話をいっぱい引き出すというのと、時間通りしっかりやるというところが評価されるわけで、それを考えると相手の話のテンポとか、どのくらいしゃべる人なのかというのは事前にインプットしておくべき情報です。めちゃめちゃしゃべる人と、ゆっくり考えながら言葉を返す人とでは、こちらのリードの仕方が変わってくるのです。ですからそういうところは必ず押さえておきます。それを押さえた上で、どういうことを聞いて、どういうふうに伝えていくかというのを考えることは、最低限やるという感じですかね。

もうひとつ、例えば事業継承のインタビューをやったりするんです。会社を売買するM&Aという世界がありまして、売り手買い手の両方インタビューさせていただきます。これって多分想像がつくと思いますが、かなりセンシティブな内容になることもあって、一歩間違えると聞いちゃいけないことや踏み入ってはいけないことも言及してしまいます。そこまでいってしまうと、インタビューに満足してもらうという目的が達成できなくなるので、事を荒立てるようなことや、地雷を踏んだり、言っちゃいけない言葉を投げたりというのは絶対にあってはいけない話です。なので、事前のブリーフィングで必ず、NGな話はありませんか?と確認します。例えば、息子さんがいらっしゃるのに息子に事業承継をしないで他の人に会社を売った場合、息子さんのことに触れてもいいのか、それとも一切触れないほうがいいのか、そういう地雷になりそうなポイントを最初に除去しておいてからインタビューに臨んだほうが良いということです。それをやらないと空気が悪くなるんですよ。

インタビューって空気を読めないと絶対ダメなんですよ。空気というと表現が悪いですが、もっとかっこいい言い方をすると、常に状況を読まなくてはいけないのです。今どういう事が起こっていて流れになっていて、相手はどういう事を考えて、どんな気持ちになっているかとか、この質問で周りが凍りついたとか、そこにある状況を読みながら回収していくんです。ちょっと雰囲気悪くなったらすぐに、「質問を変えます」と言って辞める。そしてすぐに投げ方を変えるんです。そうやって常に判断をしていかなくてはならないので、できるだけ地雷をふまないような準備をします。

その場の空気が悪くならないような下準備として、そういうことをしっかりやって初めて、お客さんの求めるインタビューがきちんとと提供できるし、インタビューを受ける人も満足できる時間を作ることができる。お客さんとインタビューを受ける人の両方を満足させないといけないので、お互いがちゃんとハッピーになれるような下準備をするわけですね。

僕たちはリピート仕事だから、“こいつダメじゃん”って一度思われたら、もうおしまいなんですよ。僕なんてハードルが高くなってしまって、プロインタビュアーだとか、年間500人やっているとか、そういう看板で見られるわけでしょう? それでちょっとコケたら、「何だよ、口だけじゃん」とか、「見掛け倒しじゃん」とか言われて、バーっと情報拡散して、「あいつやめておいたほうがいいですよ」とかなっちゃう危険もあるわけです。僕たちは紹介商売だから、紹介でどんどん広がっているわけで、それがなくなったらもう終わりですよね。だから、毎回緊張するのですよ。絶対にコケれないですものね。経験を重ねれば重ねるほどコケれないから緊張するんですよ。

もちろん、ブリーフィングをやって準備をしているようですが、“どういう人が出てくるかわからない”ってこともあるので、いつも緊張しまくってその場を迎えています。しかし、まあ緊張しないほうがおかしいでしょうね。自分の仕事に責任を持つんだったら、そりゃ緊張して当たり前ですよね。ちゃんとやろうと思っても、準備に100%なんてないではないですか。そして自分の経験がこの場で必ず活きる活かされるっていう保証は、100%ないんですよ。想定外の人が出てくるかもしれないし、45分の中でグダグダになってしまったらもう取り返しがつかないし、失敗しちゃったらもうおしまいです。そういう緊張感が常にあります。

とは言え、いつも苦痛かというとそんなことはなくて、さっきも言いましたが、人の話を聞くのは基本的に好きだし、インタビューに出る人って面白い話や興味深い話が多いじゃないですか。全然知らない世界の話や、人それぞれ持っている哲学的な話とか、人生の選択の話とか、聞くだけでもうめちゃくちゃ面白いです。自分と違いますからね。いまだかつて自分と同じ考え方をしている人と会ったことないですもの。そりゃそうなんでしょうけどね。

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